イヌの「できる」を増やすために 6 「オーダーメイド」で環境改善

突然ですが質問です。
あなたのお家に「しつけの本」は何冊あるでしょうか?

世の中、色んな「しつけの本」が出ていますが、僕がお会いする飼い主さんは大抵「役に立たなかった」とおっしゃいます。
ま、そりゃそうなんですよね。
役に立ってたら、わざわざプロに相談しようと思わないでしょうから。
もちろん、「とても役に立った」という飼い主さんもいらっしゃると思いますし、「この本の、この部分に関しては役に立った」という飼い主さんもいらっしゃるでしょう。

では、「役に立たなかった」のは、なぜなのか?
あなたはどうでしょうか?
お家にあるしつけの本は、役に立ったでしょうか?

「しつけの本」には、もちろん「正しいこと」が書いてあるはずです。
しかし、にもかかわらずどうもうまくいかない。
書いてある通りにやってみても、本に書かれている通りにならない。
たとえば「飛びつき癖のなおしかた」が、「飛びついてきたら、毅然とした態度でハッキリと『イケナイ』と言い、イヌが座ったら褒めてあげましょう」てな感じで書いてあるので、「毅然とした態度」で「イケナイ」と言ってみたものの、「全然座らないじゃんよ……」てなことになったりするんですよね。

なんでそんなことになるのか。

それは、実は「しつけの本」には、「自分の子」のことは書いてないからなんです。
「あなたのイヌ」のことは、一行も書かれていません
「イケナイと言われてそれだけで座る、どうやらこの世界のどこかにいるらしいものすごく聞き分けのよいイヌ」のことは、書かれています。
でも、「あなたのイヌ」のことは、書かれていません。

以前のエントリにも書きましたが、やはり「自分のイヌに合った」ということを考えなくてはいけません。
それはつまり、「オーダーメイド」ということですね。
僕が、訪問でのセッションをずーっとやってるのも、これが理由です。
あくまでも、オーダーメイドなんです。

さて、しつけの本には、もう一つ決定的に書かれていないことがあります。
それは、あなた。
そう。
「飼い主さん」のことは、一行も書かれていません
当たり前の話ですけどね。
だって、書いている人はあなたのことを知らないわけですから。
そして、あなたがどんな「環境」で暮らしているのか?も知りません

前回のエントリにおいて「飼い主さんに合ったしつけ方ってないの?」ということを書きました。
悩み事を持っている飼い主さんが、どんな環境でイヌと暮らしているか?は、とても大事な情報なんです。

「しつけの悩みの発達」というのは、大体が以下のようなプロセスを辿ります。

しつけの悩みの発達段階

1. 飼い主さんが用意した「環境」で、イヌと暮らし始める
一番楽しい時期かもしれません。
もちろん、イヌと暮らす環境を用意したのは、誰あろう飼い主さんです。
あれこれと調べて、準備万端でイヌを迎えて、さあこれから新生活だぞ!という時期です。

2. 飼い主さんが用意した「環境」で、イヌが色んな行動を始める
イヌは「動物」ですから、実に色んな行動をします。
まだ「カワイイ」と素直に思える時期かもしれません。

3. イヌの色んな行動の中に、飼い主さんにとって困る行動が出てくる
段々と「おやおや?」と思える行動を、イヌがし始めます。
「お前はカーテンを何故噛むのだ」「そのクッションは君のおもちゃではないし、私の手も君のおもちゃではない。…足もだ。…靴下もだ!」「トイレはそっちじゃなくてこっ…あーまたやった…」
少しずつ「こんなはずでは……」ということが出てきます(早ければ、家に迎えたその日に出たりします)。

4. 「困る行動」を、なんとか食い止めようとする
「コラ!」「ダメ!」「イケナイ!」「NO!」
なだめたりおだてたりすかしたり無視したり怒ったり叱ったりの時期です。
しつけの本を読んだり、ネットの掲示板で相談し始めたりする時期でもあるかもしれません。

5. 飼い主さんの「食い止めようとする」行為が、裏目に出てしまう
本に書いてある方法や、相談して受けたアドバイスをとりあえず実践してみる時期です。
大体が裏目に出て、「一瞬はやめるけど、またしばらくしたら同じことを繰り返す」てなことになります。
また、「実践する」といっても大体は3日ぐらいのもので、4日目からは「とりあえず様子を見る」と言いながら「節子、それ様子見ちゃう!何もしてへんだけやんか!」という状況になります。
当然、イヌの行動は止まるどころか増える一方です。
なんでみんなすぐ「様子を見て」しまうのん?

6. 割とどうしようもなくなる
何冊目かのしつけの本が家に来る時期です。
以前は最初から最後まで読み通していたのに、最近は読み方も板についてきて、関係のありそうなところだけをピックアップして読むスキルも身につきました。
しつけのスキルは身についていません。
家族会議が開かれるのもこの時期です。
この辺でプロにお願いしようかしら?となることが一番多いようです。

7. 割とどうでもよくなる
6の段階で何も変わらなかった場合「この子はこういうイヌなんだ」という風に徐々に考えはじめていきます。
でも、まだ完全に諦めたわけではないので、テレビで紹介されていた方法を唐突に試したりします(3回ぐらいやってやめます)。

この後、諦観して達観して悟りっぽいナニカの境地に入って解脱するというところまでこのプロセスは進みますが、割愛しますね。

さて。
大元のところを見ていただきたいんですけれども。
そもそも飼い主さんが困っている「イヌの問題行動」というのは、「飼い主さんが用意した環境」で起こります
つまり「あなたがどんな環境でイヌと暮らしているのか?」ということは、非常に大事な情報なんですね。

そしてこれを言い換えると、こうなります。

 「イヌが問題行動を起こしている環境」とは、
 イヌが問題行動を「できる」環境である

あくまでも「その環境があるから、問題行動が起こる」んです。
だから、「環境にアプローチする工夫」というものが、必要になります。
つまり、いま「問題行動に悩んでいる」という飼い主さんは、一生懸命「問題行動ができる工夫」を、しているとも言えます。
その工夫を、「やって欲しい行動」「賢い行動」「正しい行動」が「できる工夫」に、変えていくんですね。

そして、「イヌが問題行動ができる環境」で、飼い主さんも一緒に暮らしています。
だから、どうしても、「叱って」しまうわけです。
だから、うっかりすると「叱る必要だってある」という考え方が出てきたりするわけです。

続きます

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hit1678 について

1978年9月17日生まれ。♂ Dog Life Design ocean style代表。 行動学(行動分析学)に基づいた、イヌの問題行動の改善が専門。 高校卒業後、警察犬訓練士に師事。その後、家庭犬の訓練に従事する。 現在は、問題行動の改善をメインとしつつ、しつけ、トレーニングではなく、「ヒトとイヌの暮らし」を支える「Dog Life Design」というコンセプトで、京阪神をメインに訪問セッションやセミナー講師を務める。 現在、立命館大学大学院応用人間科学研究科応用人間科学専攻(対人援助学領域)に通う社会人大学院生。
カテゴリー: イヌの「できる」を増やす, ベースアレンジ, 考え方のベースアレンジ タグ: , , , , , , パーマリンク