イヌを叱る、叱らない

最近は「イヌのしつけは飼い主次第」という考え方が、随分と広まってきているように感じています。

 「飼い主さんがきちんとやれば、イヌは賢くなるんですよ」

これはもう、まったくその通りなんですよね。
まさに正論。

でも、それでもやっぱり難しいんですよね。

僕はこの仕事を始めてから、色んな飼い主さんとイヌを見てきました。
そして、10年ぐらい前などは、しきりに「イヌのしつけは、あなた次第なんですよ」なんて話をしていました。
「イヌじゃなくて、飼い主を変えるんだ。僕はドッグトレーナーじゃない。ドッグ“オーナー”トレーナーだ」とかね。

でも、色んな方と出会ううちに、そして「行動」について学ぶうちに、「やあ、そういうことではないかもしれないよ」と、思い始めたんですね。

たとえばね、いわゆる「無駄吠え」の話。
これまでのエントリでも散々書いてきましたが、ほとんどの場合において「吠えると飼い主さんが構ってくれるから、吠えている」という問題です。
つまり、「イヌにとって」は無駄でもなんでもなく、「飼い主さんに構ってもらうため」というはっきりとした「目的」がある吠えなんです。
そして「無駄吠え」と表現している私たち人間側が、その「吠え」を「叱る=構う」ことによって「無駄ではないもの」にしているんですね。

子育てをされた経験のある方なら、ひょっとしたらこんな言葉を聞いたことがあるかもしれません。

 「赤ちゃんの抱き癖」

赤ちゃんが泣いたらすぐに抱っこをする。
そうすると、常に抱っこされていないとダメという「抱き癖」が、赤ちゃんについてしまう。
意味としては、そういうものになるでしょうか。

でも、これっておかしいですよね。
「抱っこ」をしているのは、あくまでも「周囲の人」であって、赤ちゃんは「抱かれて」いるんですよね。
つまり「抱き癖」があるのは、赤ちゃんではなくて「お母さん」だったりするんです。

赤ちゃんの行動
 抱っこされていない-泣く-抱っこされる

お母さんの行動
 泣いている-抱く-泣き止む

赤ちゃんの「泣く」という行動は、「お母さんに抱っこしてもらうため」に起こり、お母さんの「抱く」という行動は、「赤ちゃんを泣き止ませるため」に起こると。
まさに「相互作用」「インタラクション」って感じですよね。

じゃあ、なんでお母さんは「泣き止ませようとするのか?」というと、もちろん「オムツが汚れちゃったかな?」とか、「お腹空いてるのかしら?」とか、「そろそろおねむかしら?」とか色々あると思いますが、そのいずれも当てはまらなかった場合、「泣き止ませる手段がない」という状況に陥ります。
次に出てくるのは「近所迷惑じゃないかしら?」というものになるでしょうか。

僕の先生がよくお話になる話題で、「泣き止まない赤ちゃんを抱いて、外に散歩に出るお母さんの話」というのがあります。

「近所迷惑かもしれない」ということで、なんとか泣き止ませるために抱っこして外に出た。
そうしたら、ご近所のおばちゃん達が出てきて、「うるさい!」と怒られるのかと思ったら、「赤ちゃんの泣き声は、金の鈴の音よー」と言われて、とても気が楽になったと。

このお話って、「イヌの無駄吠え」に悩んでいる飼い主さんにも、ばっちり当てはまったりするんですよね。
つまり「近所の目や耳が気になりすぎて、すぐにでもイヌの吠えを止めたい」と、ある意味「飼い主さんが追い詰められてしまっている」てなことがあります。

「イヌの吠えを止めたい」と書きましたが、実際は「止めなくてはいけない」という風に、考えていらっしゃったりするんですね。
自分自身がうるさいと感じているというのも、もちろんあるでしょう。
しかし、それよりも「ご近所に迷惑がかかる(かもしれない)」というのが、強い場合があります。
だから、どうしてもイヌが吠えると放っておけないし、「叱らなくちゃいけない」となってしまう。
飼い主さんだって、別に叱りたくて叱ってるわけじゃない。
でも、「叱らないと止まらない」「今すぐ止めないといけない」そんな風になってしまって、どうしても叱ってしまう。
そう考えると、ただ単に「叱っちゃダメです」「叱るのはやめましょう」では、なかなか難しいんだろうなぁと最近は思います。

「行動」というのは、本当に「環境」の影響を受けまくります。
何度も書いていますが「叱る」も「行動」です。
つまり「叱る」という行動もまた、環境の影響を受けています。

僕自身は「叱る」という対応がなくなっちゃえばいいのになぁと思っていますが、まあ現実的には無理だろうなぁとも思ってます。
「どこからどこまでを叱るとするのか?」という線引きの問題もありますし、やっぱり「つい、咄嗟に」っていうこともあります。
でも、無理だからと言って、目指さない理由にはなりません。
「叱る」のも行動なんだから、やりようはあるはずだろうと考えています。

んで。

このブログをご覧になっている飼い主さんにお願いしたいことが、一つだけあります。
それは「私は、うちの子を叱りたくありません」と、言っちゃって欲しいんですね。

誰に?

プロに。

そしたら、プロはどうしたって「叱らずに済む方法」を考えなくちゃいけません。
「イヌを叱らずに済む方法」は、多分みんなが考えているよりもかなり多いと思います。

↑の「赤ちゃんが泣き止まない」問題のように、「叱らなきゃいけないという状況を作り出している環境ごと、ごっそり変えちゃう」ってのも、ひとつのやり方ですよね。

 「叱らないといけない場合もある」

確かにそうです。
でも、その「叱らないといけない場合」を、人間が作っているのだとしたら、それをやめちゃえばいいんじゃないかと思うんです。

ま、この辺のことは、多分一生かけて取り組んでいくことなんだろうなぁと思ってます。
今年は、そういったことも頭に置きながら、お仕事をやっていこうと思います。

ちょっとね、いいこと思いついたんですよ。
もう少ししたら、ここでもお知らせすると思います。

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hit1678 について

1978年9月17日生まれ。♂ Dog Life Design ocean style代表。 行動学(行動分析学)に基づいた、イヌの問題行動の改善が専門。 高校卒業後、警察犬訓練士に師事。その後、家庭犬の訓練に従事する。 現在は、問題行動の改善をメインとしつつ、しつけ、トレーニングではなく、「ヒトとイヌの暮らし」を支える「Dog Life Design」というコンセプトで、京阪神をメインに訪問セッションやセミナー講師を務める。 現在、立命館大学大学院応用人間科学研究科応用人間科学専攻(対人援助学領域)に通う社会人大学院生。
カテゴリー: 「イヌを叱る(罰)」を考える, ベースアレンジ, 考え方のベースアレンジ タグ: , , , , , , パーマリンク