「叱るデメリット」 イヌを叱るのほんとのところ3

イヌを叱ることのデメリット

このエントリをお読みになる前に、以前のエントリをまだお読みでない方は、お読みください。
でないと「青島って誰よ?」という状態で、「踊る大走査線Final」を観るような感じになっちゃいますので。

これまでの関連エントリ
イヌのしつけと体罰(罰)
「イヌを叱る」のほんとのところ
「叱るメリット」 イヌを叱るのほんとのところ2

さて、今回は「イヌを叱ることのデメリット」について。
結構たくさんあるので、さくさくといきます(長いです)。

デメリット1 効果は一時的

前回のエントリでお伝えしましたように、「叱ることのメリット」というのは確かに存在します。
「行動をゼロにできる」「
即効性がある」
この2つ。
しかし、その効果は一時的であることがほとんどです。

この話をセミナーでするときには、必ず「スピード違反」の例を出します。
受講者の方に、「これまで、スピード違反で捕まったことがある人」と聞くと、まあそこそこ手が挙がるんですね。
恥ずかしながら、僕も何度か捕まったことがあります。
そして、手を挙げてもらいつつ、こう言います。
「一度捕まったので、その後二度とスピード違反をしていないという人は、手を降ろしてください」
するとどうでしょう。
ほとんど手が下がりません。
つまり、「捕まったにもかかわらず、その後もスピード違反をしている人」が、ほとんどなんですね。

大抵の場合、どこの道でも制限速度をきっちり守るという人はあまりいません。
でも、目の前や真後ろにパトカーや白バイがいたら、みんな守ります。
あとは、全然隠れてない隠しカメラがある場所とか。
でも、そういう「監視の目」が無い場所では、まず守りません
というか、守ってると逆に危ない道もありますよね。
片道3車線でほとんど真っ直ぐ、信号間隔も広い国道43号線という道路が関西にはあるんですが、そこの制限速度はなんと40km/hです。
まず誰も守ってません。
阪神高速の制限速度は、60km/hです。
これも、大体誰も守ってません。
でも、パトカーや白バイがいる場所では、みんな守ります。

そう、「罰によって行動をコントロールする」ことを目指そうと思ったら、「常に監視する必要がある」ということなんですね。
イヌのしつけでいえば、「飼い主がいないと、悪さをする」みたいなことです。
これを「罰によってコントロールする」と考えたら、常にイヌの側で監視し続けないといけません。
まあ、無理です。

デメリット2 馴れられたら強い刺激が必要になる

基本的に、動物というのは刺激に対して少しずつ馴れていきます
そしてそれは、「叱られる」ということについても同じです。

ある人が「コラ!」と日常的に叱っていたとします。
しかし、段々とその「コラ!」だけではイヌの行動を制止することができなくなってきた。
つまり、イヌが「コラ!」に馴れちゃった。
そうなると、もっと強い刺激が必要になります
でも、いずれその刺激にも馴れます
もっと強い刺激、もっと強い刺激とやっていくうちに、ひょっとしたら「イヌを殴り飛ばす」なんてことになってしまうかもしれません。
これはもはや、しつけではなく「虐待」ですね。

デメリット3回避・逃避行動が強化される

「叱られたイヌ」をイメージしてください。
それまで、何らかの行動をしていて、飼い主さんに叱られます。
すると、それまでとは違う行動が起こります

尻尾を下げて、部屋の隅っこに行く。
なんだか、申し訳なさそうな表情をする。
お腹を見せる。

こういう行動をしたとき、私たちは「反省している」「叱ったのが伝わった」と思うことが多いです(その割には、また少し時間を空けると同じことをやってくれたりするんですけど、それについてはまた今後)。

しかし、そういう行動をしない子もいます。
では、どんな行動を取るのか?といえば、それは「唸る」「噛む」という行動です。
大体の場合において、イヌが「噛んでくる」という行動をしたとき、その直前までにやっていた飼い主さんの行動は止まります
つまり、こういう流れになります。

 叱られている-噛む-叱られない

前回のエントリにも書いたように、「その場ですぐにメリットが得られる」ということに、動物はすごく影響されます。
イヌの「噛む」という行動は、「叱られているという場面、状況からの逃避」であり、実は「それ以上叱らないで」ということのサインだったりもするわけです。
そして、その「噛む」という行動が、どんどん強化されていってしまうんですね。

しかし、私たちは「噛む=悪いこと」と考えてしまいがちです。
よって、ますますイヌを叱ることになります。
こうなるとお互いに、逃げ場がありません。
そんなことをするために、イヌと暮らし始めたわけじゃないはずなのにと、いつも思います。

デメリット4 飼い主が嫌われるかもしれない

「叱る」という行為は、「行動の直後に何らかの刺激・出来事を与えて、その行動を減らそうとするもの」と、以前のエントリで書きました。
その「行動の直後」に与える「刺激・出来事」は、当然「イヌにとって嫌なこと」であることが多いです。
そして、その「嫌なこと」を与えているのは、誰あろう飼い主さん、その人です。

単純に考えてください。
「自分に嫌なことをしてくる人」を、あなたは好きになるでしょうか?

人間の場合は、まだ「言葉」でもって「実は、これこれこういう理由があって、叱ったんだよ」ということを説明できます。
しかし、イヌにそれは通用しません
ただただ「嫌だ」「怖い」という思いをさせるだけです。

自分の愛犬に嫌われたいと思ってる人なんて、いないと思います。
でも、「叱る」という行為によって、段々と嫌われてしまう可能性があるわけです。

デメリット5 「叱る」という行動が強化されてしまう
厄介なのがこれです。

前回のエントリ「メリット」のところで、「即効性がある」と書きました。
実は、「叱る」ということをやったおかげで、イヌの行動が一瞬止まるということはよくあります。
それによって、飼い主さんの「叱る」という行動が、増えてしまうんですね。

たとえば、イタズラ。

 イタズラをしている-叱る-イタズラが止まる

こういう流れに「叱る」という行動が乗ってしまったら、そこから段々と「叱る」という行動が増えます
また、別の行動の原理によって、その「叱る」という行動が、どんどん広がっていきます
イタズラだけを叱っていた人が、段々と「吠え」「引っ張り」「飛びつき」など、イヌの色んな行動に対しても、叱るようになってしまうんですね。

その結果、イヌは「叱られること」が多くなります。
段々と、飼い主さんを苦手になっていきます。
段々と、飼い主さんから逃げるようになっていきます。
最悪の場合、噛むようになります。

つまり、この「叱るという行動が増える」ことによって、全てのデメリット、リスクが上がってしまうわけです。

ところが、そのことに気づくことはとても難しいものがあります。
だって「叱ったその瞬間は、イヌの行動が変わる」から。
ですから、「自分がやっていることは正しいはず」となってしまいます。
だって「叱った瞬間」は、「うまくいっちゃってる(ように見える)」わけですから。
にもかかわらず、またイヌは同じことをやってしまったりします。
なんせ「効果は一時的」ですから。
そうなると、そこから「ちゃんと叱っているのになおらないこのイヌはおかしい」までは、せいぜい徒歩3歩ぐらいの距離です。

他にも挙げればまだありますが、ひとまずここまで。
さて、これだけのデメリットがあるにもかかわらず、「イヌを叱る」という人は少なくありません。
それを推奨するプロもいるぐらいです。
しかし、多くの場合「叱る」という対応はとても難しいことが多いです。
次回は「叱るのがうまくいかない理由」について、書いてみます。

続きます

広告

hit1678 について

1978年9月17日生まれ。♂ Dog Life Design ocean style代表。 行動学(行動分析学)に基づいた、イヌの問題行動の改善が専門。 高校卒業後、警察犬訓練士に師事。その後、家庭犬の訓練に従事する。 現在は、問題行動の改善をメインとしつつ、しつけ、トレーニングではなく、「ヒトとイヌの暮らし」を支える「Dog Life Design」というコンセプトで、京阪神をメインに訪問セッションやセミナー講師を務める。 現在、立命館大学大学院応用人間科学研究科応用人間科学専攻(対人援助学領域)に通う社会人大学院生。
カテゴリー: 「イヌを叱る(罰)」を考える, ベースアレンジ, 考え方のベースアレンジ タグ: , , , , パーマリンク